引き続き、僕の著書「国産車の予算でかしこく輸入車に乗ろう」(99年ごま書房刊)より、再録。
第五章 国籍・ブランド別魅力と弱点の研究
イギリス車編
90年代のクルマなら不安は少ない
今も手作りを貫く工芸品、ロールス・ロイスから、20世紀が生んだ傑作大衆車とされるミニまで、イギリスのクルマのラインアップは奥が深い。かつてはひどく信頼性が低いことでマニアにしか乗れないクルマとされていたが、一部の手作りのクルマを除けば90年代に入ってそれも改善され、品のいいインテリアやたたずまいを持つ、上質な実用品となっている。
ジャガー
“自動車界の至宝”ロールス・ロイスやベントレーは、一般には少し敷居が高すぎる。誰もが知っていて、かつその気になれば乗れる英国の高級車、ということなら、やはりジャガーが筆頭だろう。
車名の通り、猫を思わせるしなやかな乗り味や、木と革で仕立てられたインテリアの居心地のよさ、低く、長い優美な外観は、ベンツやキャデラックといった他国のライバル車にはない、英国らしさ。実際それがこのクルマの最大の売りだ。
80年代までは、電装系の耐久性が極端に低く、とくに日本のような高温多湿の風土では使いものにならなかったが、90年代に入り、日本製のエアコンを使うなど努力・研究した結果、現在ではほとんど問題のないところまで改善されている。
中古車市場でも、かつての悪いイメージのためか比較的安く、ライバルのベンツSクラスより安く手に入る。とはいっても、安心して乗るためには200万円を最低予算としたい。
ただし、販売店網はベンツほど充実しておらず、台数の少なさから取り扱った経験のある工場が少ないのがネック。正規ディーラーか、腕のいい工場が近くにあることが購入の条件だ。
●2011年現在の追記
この原稿を書いた当時は、ジャガーがフォード傘下となってほぼ10年後。主力モデルのXJシリーズが、80年代に登場したXJ40型から、外見はほぼそのままながら、フォードの手で大幅に手が入れられたX308型と呼ばれるモデルに進化した直後。中古車市場の中心は、まだまだXJ40型だった。それでも、主力モデルのXJシリーズのボンネットを開けると、かつてはやたらと壊れて立ち往生の原因になったリレー(この時代にまだリレーが使われていたこと自体が凄いが)は、カラフルな樹脂カバーのついた最新型になっており、本文にある通り日本製のエアコンが装着されるなどして、ずいぶん信頼性は上がっていた。
ただし、ハードウエアとしての出来ばえはある意味時代遅れなおかげで味がある感があった。どこかたてつけがゆるく、しかも設計が古くて重いおかげで、バネ下との相対関係でしなやかな乗り味がたまたま実現されていたような印象だったのだ。
しかし、フォードが本腰を入れた2000年代のジャガーは大きく変わる。アメリカフォードの高級車、リンカーンのシャシーを使って99年に登場したS タイプは、信頼性、走行安定性ともに劇的に向上。04年のマイナーでは内装もよき時代のジャガーの雰囲気に回帰して、乗り味もさらによくなった。
モンデオのシャシーから01年に生まれたコンパクトなX タイプは、フットワークがよすぎてジャガーらしくない感もあったが、手頃な価格と期待を裏切らない木と革のインテリアなどでジャガーを身近なものにした。
そして03年にモデルチェンジした真打ちのXJシリーズは、これぞ新世代のジャガーという出来ばえで世界を納得させた。オールアルミ製の凝ったボディは、デザインこそそれまでの低く、長い印象と異なったため当初不評だったが、乗れば見事に最先端の走りとジャガーらしい乗り味を融合させたもの。各部の立て付けや信頼性なども大フォードグループの沽券にかけて向上しており、メルセデスと真っ向勝負ができる“商品”になっていたのだ。
現在の中古車市場でも、S タイプやX タイプは数は少ないものの、100 ~200 万円程度の予算でそこそこのクルマが流通している。03年デビューのX350型と呼ばれるXJシリーズでも、200 万円の価格でかなりビシッとしたクルマが手に入る。
よき時代の80年代のモデルでも、専門店で探せば、100 ~150 万円程度でV12 エンジン搭載車まで探せる。こちらのほうが近年のモデルより維持に手間や金がかかるのは仕方ないところだが、ノウハウのある専門店なら、この原稿を書いた当時ほど苦労せず、往年のジャガーの魅力を堪能することもできるだろう。
その後も07年に美しい4 ドアクーペフォルムのXFが投入され、09年にはXJがさらに美しいスポーツセダンへとモデルチェンジ。よき時代の英国流のダンディズムやスポーツ心をモダンに表現して、いよいよジャガーネスは新時代へと突入している。これらが中古車市場に出てくるのはまだ先という感じだが、値がこなれてくれば、かなりの人気を呼びそうだ。
ただし、激動する経済状況の下、ジャガーはフォードからついに見放され、08年にインドのタタグループ傘下となった。これでジャガーも終わりだと愁う声もあるが、懇意にしているよき時代のジャガー専門店の主人は、「もともと英国の領地だったインドは、かえって英国らしさをうまく引き出してくれるのではないか」と期待していた。なるほどそういう見方もできるかもと思う。
よき時代の英国らしさを理解したインドの資本の下で、開発・生産は英国で行われ、フォード傘下時代の品質・生産管理が受け継がれるのならば、なるほどこれからのジャガーは、VW傘下のベントレーや、BMW 傘下のロールス・ロイスがどんどんドイツ車的になっていくのに対して、むしろかえっていい意味での英国車らしくなっていくのかもしれないのだ。
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